大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)1103号 決定

二1 よって検討するのに、まず、抗告人の抗告の理由の1についてであるが、借地法八条の二第一項に基づく借地条件変更の裁判は、借地人に堅固な建物の所有を目的とする借地権を取得させるのみで、これを取得した借地人が目的土地の所有者あるいは隣接地の権利者と共にそこに共同ビルを建築するか、それとも単独でビルを建築するかといった現実の借地の利用について制限を加え、あるいは許可する等のことを目的とするものではないから、右変更の裁判自体が都市再開発を阻害したり、逆にこれを促進したりすることは原則としてありえないことである。しかしながら、借地人の計画する借地の利用内容が相当性を欠き、例えば土地の所有者であっても許されないような土地利用を計画している場合であれば、借地条件の変更を許さないとすることができるものといわねばならない。以上の見地に立って本件をみると、本件土地付近の都市再開発は未だ計画途中の段階にあって、その実現の見通しは立っておらず、近隣の最近建築にかかるビルなども、右の都市再開発を考慮に入れたものではない状態にあって、本件の申立人にのみ右都市再開発を考慮に入れた共同ビルへの参加を強制することは、相当でないものといわねばならない。勿論、現状において都市再開発の見地からする建築行為の制限等は行なわれていない。ところで、本件土地の地積は狭く、必ずしも高層ビルに向いてはおらず、隣接地と併せて共同ビルを建築した方が、多くの観点からみて望ましいことは、抗告人の主張するとおりである。しかしながら、記録中の周辺地域の景観写真をみると、本件土地の近隣には、相手方が計画している四階程度の中層のビルが多数認められるのであり、この程度の階数のビルであれば本件土地の地積も過少にすぎることはないものと認められ、相手方の計画するビルの外観その他も右周辺地域の景観からみて、異常なものとも認められない。そうとすると、抗告人が主張するように共同ビルの方が望ましいが、相手方の計画する単独ビルも、本件土地の所有者であっても建築を思いとどまるべきであるとするほどの違法あるいは不当なものとは、とうてい認められない。以上のとおりであるから、相手方の本件借地条件変更の申立ては認容すべきものであって、抗告の理由1は採用できない。<中略>

3 そこでさらに、抗告の理由2(二)の賃料の増額について検討する。原決定は、現行の賃料額を改訂する必要がないという原審鑑定委員会の意見に従っているが、記録によれば、抗告人主張のとおり、借地条件を変更し堅固な建物が建築された場合、固定資産税等の金額が現行の賃料を上まわることが認められるから、賃料を増額する必要があることは明らかである。そこで、本件記録中の賃料額に関する資料等をみると、次の事実が認められる。

(一) 本件土地は、小田急電鉄江の島線大和駅東口広場前に位置する繁華な商業地である。借地権設定のために権利金が支払われたとの事実を認めるべき資料はない。

(二) 本件借地条件の変更(借地期間の延長を含む。)により、相手方の本件土地の利用については借地契約上殆んど制限がなくなり、相手方は抗告人の企図する共同ビルに参加するなどによって、あるいは現に計画中の単独ビルを建築した場合より以上の収益を取得することができるかもしれないが、現に計画中の単独ビルの場合でも、その年間収益は次のとおりである。そして、借地条件変更後の賃料は、このうち土地に帰属すべき収益を賃貸人と賃借人の間において公平に配分することにより決すべきものである。

(1) 総収入から総費用(地代を含まない。)を差し引いた

収益         一六二四万六五〇〇円

(2) 建物に帰属する収益   九一一万三〇〇〇円

(3) 土地に帰属する収益((1)から(2)を差し引いたもの)

七一三万三五〇〇円

(4) 土地の固定資産税及び都市計画税(一坪月額一三二七円の実測四六・五六坪分の年額)

七四万一四二一円

(5) 税引きの土地に帰属する収益((3)から(4)を差し引いたもの)

六三九万二〇七九円

(6) 右収益を一か月三・三平方当りの金額に換算した額

一万一四四〇円

(三) 本件土地の賃貸について、地代家賃統制令の適用はないが、適用ありとして統制額を計算すると、一か月三・三平方メートル当り五四七四円である。このうちには、固定資産税及び都市計画税分一三二七円と賃貸人の管理費用若干が含まれているので、右の統制額の中の賃貸人の手取収入分は、約三八八二円であり、これは、前記(二)の(6)の土地に帰属する収益一万一四四〇円の約三四パーセントにあたる。

(四) 原審鑑定委員会の認定した本件土地の更地価格一平方メートル当り六四万三〇〇〇円を基に、底地権の割合を三割とみて底地価格を算出し、商業地であるから利廻りを年間三パーセントとして積算賃料を算出すると、一か月三・三平方メートル当り五三〇四円となる。この金額には、右の算出方式から考慮して固定資産税及び都市計画税を含ましめるべきである。

(五) 本件土地付近の地代の事例をみると、原審鑑定委員会意見書にあるような一か月三・三平方メートル当り五〇〇円代から一〇〇〇円程度のものが認められるが、いずれも固定資産税等の額に比較して異常に低く、特殊な事情が作用して低額の地代が形成されているものと認められるので、本件の参考とし難い。

(六) 現行の賃料額は、抗告人の主張によると現行の固定資産税及び都市計画税の約三・八二倍、相手方の主張によると右の税の約二倍であるが、借地条件が変更され借地期間が延長されると、借地人の土地利用に殆んど制約がなくなるのであるから、右の倍率が変更されるのはやむをえないとしなければならないが、住宅地の賃貸借においてさえ右の倍率が三倍を越える事例が多数あることは、当裁判所に顕著なところであり、本件のような繁華な商業地では賃料支払の資金面において住宅地とは格段の相異があるから、右の倍率が三倍を越える結果となるのも異とするに足りないというべきである。右の倍率が三倍であるとすると一か月三・三平方メートル当り三九八一円、五倍であるとすると六六三五円となる。

(七) 他方、本件借地条件変更に伴う財産上の給付として、賃貸人は八五〇万円の支払を受けることとなり、これを民事法定利率年五パーセント(これは現在の実質金利(名目金利をインフレ率で修正した実質の金利)を上まわっているから、賃貸人にとって若干不利な計算となるが、右実質金利を正確に計算することは困難であるので便宜これを用いる。)でまわすと、年間四二万五〇〇〇円の収益を上げることができるが、このことは賃料の算定上相手方に有利に斟酌すべきである。これを本件土地の地積で除して、一か月三・三平方メートル当りの金額に換算すると七六一円となる。

以上(一)から(七)までの事情を綜合して判断すると、本件借地条件が変更されたときは、賃料を一か月三・三平方メートル当り四七〇〇円(固定資産税・都市計画税と管理費を差し引いた賃貸人の手取収入額は約三一〇八円で、前記(二)の(6)の土地に帰属する収益の約二七パーセントとなる。)、本件土地全部で一か月二一万八八三二円に増額するのが相当である。原審鑑定委員会の意見は、採用することができないし、また、当審において相手方が提出した不動産鑑定士高瀬武通の鑑定評価書の結論も賃貸人の手取収入額を一か月三・三平方メートル当り金五〇〇円とするなど、不当に低額にすぎて採用すべきものではない。

(松永 糟谷 浅生)

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